CHAPTER 1 : ALLURING GUY 1 

何の前触れもなく、突然目が覚めた。
だけれど、ちゃんと目を開けたはずなのに何故か視界も頭も微かにぼんやりしている。

――……そういえば昨日飲んだな……。

横を向いていた体を少し起こそうと思って、その男――土田は、ふと足に何かが絡み付いている
ものに気が付いた。毛布だと思ったそれは、しかし自分の足に吸い付くようなしっとりとした感触
で、どうも毛羽立った感じがしなかった。そういえば、腹の辺りにも暖かい感触がある。

――細い布のようだが、はて、浴衣の帯だろうか。東京に出てきてからというもの、一応は浴衣で
はなく寝間着で寝ていたはずだ……では、これは……?

そうこうして、体中の感覚をいちいち呼び起こしていくうち、ふと背後が温かいことに気づいた。

――寝ている間に、背中に毛布を丸めて押しやってしまったのだろうか。

一度気が付いてみると、足よりも腹よりも、背後から被さっているものの方がよほど暑苦しい。

スゥ……スゥ……

――?!待てっ、背中にかかるこれは、明らかに呼吸してないか???

土田の心臓は急に忙しなくなった。

待て待て。まずは昨日のことを思い出さねばならん!
昨日といえば、そうだ。大学で偶然同じクラスを取ることの多い、あの男の誕生パーティーがあっ
た。奴の家に行き――そうして、そこに居た人間と言えば。

『ん……起きたのか……?』

その声にハッとする。背後から聞こえるやや鼻にかかった低い声。

『どうせ今日は日曜だろ、寝ていろ……』
背後の声の主は、そういうとそのまま自分の肩の辺りにおでこをつけて、またスゥスゥと静かな呼
吸に戻ろうとした。

「お、おいっ……!」

そう、成績は優秀なのだが、しょっちゅう周りの人間に代返を頼んだり、自分に絡んできたりする
あの男――

「金子っ!」

『何だ……人が眠っているのに……煩い』
「これは何だっ!」
『……これ?』
「だから、これとは、この、こういった状態だっ……!!!」

金子は小さく舌打ちすると、もぞもぞと動いた。腹と、足に絡み付いていたものも漸くどけられた。

「お……お前の体だったのか……!」

絡み付いていたものが金子の腕と足だったと今更ながらに知った。やっと体が解放されて、土田
は勢いよく起き上がる。

「つ……」

――何だ?頭がグラグラして気分が悪い。

金子がゆっくり半身を起こすのが目の端に見えた。

『ああ……やはりな。随分昨日飲んでいたから、二日酔いだろう?――無理するな、寝ていろ』

「二日酔い……これが、二日酔いというのか……?」

本当にそうだろうか。自慢ではないが、アルコールには強い。今まで焼酎であろうが日本酒であ
ろうが、いくら飲んでも二日酔いになどなったことはないのだ。

『ああ。慣れないものを飲んだからだろう。お前、ワインは初めて飲むと言っていたからな』

ワイン――ああ、そういえばその名前のものを飲んでいた。今までに飲んだことの無い、あの真紅
の酒。
美味いぞなどとこの男が勧めるものだから、試してみたのだ。日本酒とも焼酎とも違う、何か濃
厚で、見た目にも少々派手に過ぎるあの液体――とはいえ、いくら初めて飲んだからといって、
本当に自分は酔ったのだろうか。

クラクラする頭がだるくて、考えながら俯いてみて――一瞬、眼下に見える光景に愕然とした。


「な……何故俺は、何も身につけていない……」

『――今頃気づいたのか?普通、すぐに気づかないか?』

金子の呆れたような声がする。

「ああ……そうだった!だから、説明を……この状態を全て、きちんと説明してくれ……っ!!」

顔を上げてみると、金子は何故か眉一つ動かさないままの顔で、少し首をかしげたように見えた。

『だから……お前が酔っ払って帰れなさそうだったから、そのまま俺の部屋に泊めた』
「ああ……それについては……迷惑をかけたようだな。すまなかった」

いくらぼんやりとした頭でも、部屋の内装がまるで違うのだから自分の家でないこと位は気づい
ていた。

『いや、構わないさ』
「……だが、俺が聞きたいのはそういうことではなくっ……う……」
『――水を持ってくるから待っていろ』

金子はベッドから降りると、側の椅子に引っかかっていた白いシャツを羽織って部屋から消えた。
ベッドを降りる際に奴の体が僅かに揺れた気がしたが、それは金子がどうこうではなく、もしかし
たら俺が二日酔いでぼうっとしているからかもしれない。

『水だ。大丈夫か?』
「ああ……すまん」

冷たい水の入ったコップを手に握らされて、ふと我にかえる。
それを一口二口と飲むと、冷たい液体の喉越しが僅かに気持ち悪さを軽減してくれた。

「それで、先程の続きだが俺の聞きたいことは……つまり、今のこの状態が一体どういう訳なの
かと……」
『この状態、とは?』
「だから……お前がすぐ後ろに寝ていたり……その、俺もお前もこんな姿であったり……」
『……お前、何も覚えてないのか?』
「……覚えていないというか何と言うか……頭が痛くて、今はどうも思い出せない」
『ふうん、そうか。残念だな。普段は仏像なんじゃないかと思うほど強面で無表情なお前が、まさ
かあんなに情熱的に求めてくるとは思わなかったから、俺はある意味感心したんだが』

ブゥゥゥッッッ……!!!

飲んでいた水を口から思い切り前に噴出した。しかも、金子の顔に向かって。

『?!おいっ!汚いな、吹き出すなよ!』
「!すまんっ、悪かった!!!」
『まったく、無礼にも程がある……』
金子はベッドの横にあるサイドテーブルからティッシュを取ると、不機嫌そうに顔を拭いている。
だが実際には、粗方吹いたのか、そのゴミになったティッシュをゴミ箱に投げ入れてこちらに顔を
向けた金子が想像した程には怒っていなかったのが、却って不思議な位だった。

『そんな訳で俺は結構疲れているんだ。まあ、気分は悪くはないがな。だから、もう少し寝る』

そう言い終えると、目の前の男は悪びれもせずにベッドの足元の方に押しやられている布団に腕
を伸ばした。

「いや…ちょっと待て」

思わず伸ばしている金子の腕を掴んだ。

『なんだ』
「分かりやすく言ってくれ……その、情熱的に云々というくだりについてだが……」
『お前だってそこまでガキじゃないんだろう?大体、お前と俺のこの姿を見れば、すぐに想像はつ
くじゃないか。お互い裸になって、他に情熱的に何が出来るというんだ?新手のマッサージか?
それともボディペインティングでもするのか?』
「!!!」

カアァァァ……

自分でも確実に顔が赤く、熱くなったのが分かった。

『……何だ、茹蛸みたいな顔をして……ふ…面白いな』

金子が片腕を掴まれたままの状態で、顔を少し近づけてくる。
その表情はかなり意地悪といっていいが、その白くてつるりとした肌といい、多少好みは分かれ
るのだろうが、とりあえずは誰もが認めざるを得ない事実――綺麗に整った顔立ち――を面前に、
それは奇妙な色気を漂わせていた。

「ま、待て、やはり分からん……!!!」
『……は?』
「い、いや、分からんという訳ではないが……そうだ、納得がいかん!!!」
『納得も何も、事実だろう。第一、もう済んだことをいっても始まらないと思うが?』
「いくら酒に酔っていたとはいえ、お前の性別位は見分けがついたはずだ!」

確かに目の前に居るこの男の顔が整っていることは認める。背は高いが、体の線は自分と比べて
もかなり細い。しかし、女に見える程ナヨナヨしてはいない。どんなに酔っていても、女と見間違え
るはずはないのだ。

『当たり前だろう。女と間違えてヤったなんて、却って失礼じゃないか』
「待てっ、確かにお前は男で、いくら酔っていてもお前を女と間違えるようなことは断じてっ……
多分……いやいや、やはり絶対にないっ……!だがそれよりも何よりも、俺はストレートだ!ノー
マルなんだ!」
『そうか。でもだからといって、今のこの状況を否定する根拠としての説得力はほぼないがな』
「何?!」
『お前が密かにファンクラブに入っているあの日向要は男じゃないのか?』
「!お前、どうしてそれをっ……!」
『確かに日向要は女顔負けのおかまキャラだけど、男だというのは知っているんだろう?』
「おかまキャラなどではない!それに俺はただ、あの人の歌がっ……」
『嘘をつけ。毎年恒例のツアーの東京公演を全日程網羅しているのはどこの誰だ?歌だけであれ
ば、そんなことをしなくてもCDを聞けば十分じゃないか』
「……!!!」

どうしてこの男はそんなことまで知っているんだ!!??
そう、確かに俺はアイドル、日向要の大ファンだ。TVで一目見て恋に落ちた――と言っていい。
だから速攻でファンクラブにも入った。これまでチャラチャラしたアイドル風情など興味もなく、た
だひたすら剣道、勉強、そしてアルバイトに明け暮れてきたが、あの人は別だ。一目見たその時か
ら、何か不思議な繋がりを感じたのだ。この人は俺が守らなければいけないのではないかと、そう
思えたのだ。
だから、彼の性別など関係ない。
男であろうと女であろうと、俺の感じた縁はそういうことではなく、一人の人間として惹かれるも
のがそこにはあるのだ。
美しく、儚げなのにどこか芯の強い、あの犯しがたいオーラ――これはもっと違う次元の話であっ
て、日常生活に起こる男男関係(?)とは話が別なのだ。

「っ……?!」

不意打ちで体の中心にぞくっとするような衝撃が走った。
何だかんだといって目が覚めてからというもの、これまでガードががら空きだった下腹部に、金子
の手が思い切りかぶさっている。

『1人でニヤニヤするなよ。どうしても自分が俺に欲情したと認めたくないというのなら、もう1度
試してみるか?』
「はぁ?!やめ……っ!」

その手を払いのける前に、しっかりと握り込まれてしまった。

『下手に動こうとすると、すごーく痛い目に遭うと思うぞ?』
「な……金子、頭でもおかしくなったのか?!離せ……!!」
『いやだね。さっきから聞いていれば、俺を目の前にして否定につぐ否定の連呼。それじゃあ、俺の
立場はどうなる?』
「あ……いや、お前自身を否定している訳では……っ」
『同じことだろう。例え記憶が飛ぶ程酔っ払っても、お前は俺に欲情などしないと、それほど俺には
魅力なんてないと言っているも同然だからな』

金子の顔は全く笑っていなかった。少し険のある目で真っ直ぐに見上げてくる。片手で俺のもの
をにぎりこんだまま、すぐ間近い位置にその顔があった。

この男のこんな真面目な顔は見たことがない。
いつも斜に構えたような、ちょっと世間を小馬鹿にしたような顔で薄く笑っている――それが金
子のよく見る顔であったから――少し焦った。この男を少し傷つけたのではないかと、そう思って。

「違う!そんなことは言っていない……っ」
『言っているようなものだろう。確かに俺は、日向要のような顔ではないがな……でもそんなに
嫌な顔することないじゃないか』
「別に嫌な顔など、俺は……っ」
『してるさ。そんな顔で否定されたら、俺の立場はどうなる?欲情したお前に応えてやった、俺の
立場をお前は考えはしないのか?』
「!あ……いや、その……すまん」
『すまんで済まされるか。それじゃあ俺はまるで酔ったお前に乗せられた、単なるバカじゃないか。
しかも、お前はそのことをキレイさっぱり忘れているというんだからな。俺は全て覚えているのに
……』
「う……いや、本当にすまん。……覚えていなくて、すまない」
『……百歩譲って、覚えていないことは許してやる。でも、覚えてないからといって昨日の夜あっ
たことまで否定するな。それは認めろ。……でなきゃ、やりきれない』
「金子……分かった。すまなかった」
『……分かればいい』

俺の中心部をしっかり握っていた金子の手が緩む。そして――

「か、金子……っ?!」

金子が、いきなり抱きついてきた。
先程水を取りに行く時にシャツを羽織っていたとはいえ、前は完全に肌蹴ている。そんな状態で裸
の自分に抱きついてきたら、この男のやや薄い肉付きも、体温も、そして突起している部分も丸分
かりだ。

『煩い』

金子は、静かに、しかしピシャリと反論の全てを撥ね退けるような声で一言、耳の側で言った。
まだ怒っているのだろうか――そんな風に取らざるを得ない、有無を言わせない言い方。
とてもその体を引き剥がすことは出来なかった。





煩い――そう言ったら、腕の中の男はあっさりと抵抗を諦めた。
実際には自分よりも身長が高く、体格だって比べ物にならない程立派だというのに、このごつい
男は窮屈な俺の腕の中で、黙った。

全くバカな……いや、バカ真面目な奴だ。途中で主題が摩り替わっていることに気づかず、その
まま納得してくれるのだから。いや、きっと後になってそのことには気づくだろう。だが、それは
正しく後の祭。一度納得したのだから、この男の性格から言って、いつまでもグチグチと言ってく
ることはないだろう。例え何か違う、と気が付いたとしても。

本当にお人好しなことだ。これで今後、土田には俺を拒否できる理由がなくなった。今日のように
少々傷ついたフリでもすれば、きっとこの男は俺を拒めないだろう。
――まあ、昨晩のことをキレイさっぱり覚えてないという事実には、実際少しばかり傷ついたが。


入学したての頃に知ったこの男がいつも何となく気になっていた。
その理由を問われれば、こまごまとしたことはいくつか思い浮かぶのだが、これ、という1つの断
固とした動機がある訳ではない。どちらかといえば、いつの間にか、と一言で言ってしまった方が
より相応しい。
だが、いずれにしろこれまで周りにこんなタイプの人間はいなかったから、イマイチ素直に近づ
くことが出来なかった。会えばいつもついからかい口調になってしまい、友人になることすら、容
易ではなかった。
だが、そんな状態が1年以上も続くといい加減にこの中途半端な状態に厭きてしまった。
そこで思いついたのが誕生パーティーだ。無論、実際にはパーティーなどする気はさらさらない。
ただ、大して仲良くも無かった土田を誘うための口実が欲しかったのだ。だから、先日土田にこう
声をかけた。


『来週末、俺の家に集まるんだが、お前も来ないか?』
「来週末?」
『ああ。俺の誕生日だ』
「そうか……しかし俺なんかが行ってもいいのか」
『勿論。でなきゃ誘わないさ。来るだろう?』


この集まる、というのが曲者で、実際には他の誰にも声なんてかけていなかった。
大体、常識を考えれば分かるだろう。何が悲しくて20才を過ぎた男が、ヤロー友達なんぞ集めて
誕生パーティーを開きたいなんて思うだろうか。
だが、土田にはこの常識がなかった。どんなことであっても、真顔で嘘をつく人間が己のすぐ身近
にいる可能性を、土田は考えない性質なのだろう。それが災い……もとい、幸いした。

よって、当日、つまり昨日のことだが、土田は1つの事実を手遅れな状態で発見することになる。自
分の他に誰も来ない、ということだ。だが――それを知ったこの男は、やはり何も言わなかった。
予想通り、俺を問い詰めることもなく、疑問をぶつけてくることもなく、ごく普通に友達の家に遊
びに来ているかのように、用意した食べ物を食べ、そして大いに飲んだ。
それはもう、びっくりする程豪快に。

俺は何も、最初から全てを計画していた訳じゃないんだ。
ただ、家に呼んで、もっと色んなことをこの男と話してみたかった。人となりを、もっと間近で、そし
て誰にも邪魔されずに、観察してみたかったんだ。
だけれど――酒はそこそこいける口であるはずの自分が、少々酔った。
もしかしたら、神経が高ぶっていたのかもしれない。あいつと2人きりで、飲んだことどころか、ま
ともに話したこともなかったから。そんな状況には慣れていなかったから。

そこから、何となく軽い好奇心で――そのことの善悪なんて野暮なことは考えずに――ワインに
少しばかり催淫剤を混ぜてみた、と言ったら、随分と話が飛躍していると思われるだろうか。
だが、それが事実だ。土田の違う面を……有体に言えば、いつもの落ち着き払った態度から、その
落ち着きを取っ払ったところを見てみたかった。
何故そんな薬を持ってたかは、まあプライバシーの問題だ。答える必要はないだろう。
だが、誓って言うけど、使ったのは初めてだった。どんな効果があるのかは何となく分かってはい
たけれど、本当に効くものなのか、どれ位効くのか、効いた場合具体的にどんな風になるものなの
か、全くの未知数で、興味があった。
何故って、土田はいつも表情をあまり変えなくて、自他共に認める硬派で、強面な男だったから。
そんな男がどう変わるのか見てみたかったから。
――まあ、もしかしたら意識せずともこの時、既に少しは下心があったのかもしれないが。

そうして、何も知らないこの男は、催淫剤の混ざったワインの杯をきれいに飲み干した。その、凛と
した背中は感心する程だった。
だが、そんな姿を見ていたら、少々罪悪感が湧いてきた。
何より、さすがの自分にも経験がないものだから、万が一にも自分だけがシラフの状態で、いきな
り野獣化した土田に襲われでもしたら一体どうなるのかと、少々よこしまな期待と好奇心が……
じゃなくて、あくまで大いに不安になったものだから、いっそ毒は毒で以って制すべし、とばかりに
恐る恐るグラス半分だけ飲んでみた。

やがて――土田の顔が見る見るうちに赤くなってきて、息遣いが荒くなっていった。暑いから上を
脱ぎたい、と苦しそうに息を吐いた土田は、服を引きちぎるんじゃないかと思う位手に力が入って
いたから、脱ぐのを手伝ってやった。
すると、やがて自身もゾクゾクしてくるのが、自分でも分かった。
この男のガタイがいいことは、何も脱がせなくても一見して分かっていた。だが、実際こうして目
の前にその適度に日焼けした、無駄な贅肉ひとつない引き締まった体を見たら、どうにも触れたく
なってしまった。手で触れるだけでなく、口付けて、舐めたくなった。
――いや、言っておくが、別にソッチの方の気は本当に自覚してはいなかった。強いてその原因を
問われれば、少々悪ふざけが好きだった、という一言で収めるしかない。

いずれにしろ、それが催淫剤のせいだけだったのかは、今でも分からない。
だが、あられもない姿になっていく土田の形の良い筋肉の隆起に触れてたら、身体は熱くなるば
かりだった。自分でもコントロールの出来ない、熱いものが内側からこみ上げてきて、息苦しい位
だった。
心臓は大袈裟な位に跳ね上がり、呼吸は乱れ、自分の着ている服が肌を微かに擦るだけで、背筋
にぞくりとしたものが走る。身体中が総毛立ったようになって、自身の下腹部ははち切れんばかり
に張っていた。

とにかく、何でもいいから弄ってくれ!早くこの熱を解放してくれ!――それ以外に、何も考えら
れなくなった。
俺でさえもこうなのだ。俺の倍の量は飲んだ土田は、さぞや苦しかっただろう。

気が付いたら、土田の頭を押さえこみ、無我夢中でその唇を、口膣を貪っていた。
土田は――気持ちとしてはギリギリまで抗おうとしていたのかもしれない。だが、仮にそうだった
としても、それは土田の「断固拒否」という行動に表れることはなかった。
それに、脱ぎかけの洋服やら互いの足やらが絡まって床に2人して転がった時には、土田も完全に
最後の理性を飛ばしてしまったようだった。
もどかしそうに、少し乱暴な位に俺の服を脱がそうとする土田を見て、俺は――理性をなくした男
に襲われでもしたら、怖くなるんじゃないかと想像していたんだが――実際には、早く!と口走っ
ていた。

例え、状況が見えなくなる程に酔っ払っていたとしても、催淫剤で理性が完全に飛んだ、不自然な
状態であったとしても、土田は俺を求めていたし、俺もこの男を求めていた。
不自然な形で発生したまがい物の感情だったとしても、土田に求められることが、たまらなかった。
返す返すも誓って言うが、今まで俺は女役などやったこともないし、それどころか、同性と寝たこ
とも無かった。
そんな機会は、普通に生活していて滅多に巡ってくるものじゃないだろう。
無論、俺が土田に覆いかぶさってみても良かった訳だが――さすがに、それは少々気が引けた。
2人きりの空間をセッティングして、初めてというワインを大量に勧めて、あげく催淫剤まで使って
この男の欲望を滾らせたのは全部自分の策略な訳で――それなのに、いざそれを解放する段に
なって、女役をやれとは言えなかった。
第一、薬で理性を飛ばしたこの男を腕力でねじ伏せることなど、到底不可能だっただろう。俺だっ
て怪我はしたくない。


全く――よくよく振り返ってみれば、無茶なことをしたものだと思う。
土田も俺も男と寝た経験などないというのに、いきなり催淫剤だ。
3日間何も食べていなかった馬の鼻先ににんじんをぶら下げたようなもので、単に求める、などと
いう甘いものではなく、正に餓える――という言葉が相応しく、がつがつに飢えた者同士がよく
手順も分からずに互いを貪るように求めてヤるものだから、乱暴なことこの上ない。
こちらも催淫剤を飲んでいたから多少の苦痛はやり過ごせたが、これがシラフだったらと思うと
ぞっとする。
よく見てみろ、俺も土田も体中傷だらけで、おまけに体のあちこちが痛い。
本来口外すべき話ではないが、先程ベッドから立ち上がった時、後ろの秘すべき場所に鋭い激痛
が走った。正直歩くのも少々辛いし、腰に力が入らないから電話帳を一冊持つのも今は厳しいか
もしれない。まあ、自分から襲わせた手前、みっともない姿は絶対に晒さないつもりだが。

――それはそうと、今後はちょっと勉強しておかないとまずいだろう。このままでは、誘ったはい
いが、俺の体が持たなそうだ。






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