CHAPTER 1 : ALLURING GUY 3

翌日の午後、授業を終えて立ち上がると、後ろから肩を掴まれた。
振り向くと、そこにはいつものように少し愛想笑いを浮かべた金子が居る。


「何だ」
『お前、土曜日はバイトなんだろう?その後でいいから今週末、俺の家に寄れよ』
「?」
『お前の置いてった焼酎、せっかくだから飲まないとな。俺はあまり焼酎は飲まないから1人では
空けられないが、お前ならば当然飲めるだろう?』
「……他に飲んでくれる友達はいないのか?」
『自分が持ってきたものだというのに、他人任せにするつもりか?こちらの責任は取れよ』
「――分かった」

金子は、確実に分かった上で言った。最後の台詞を。当然、先週末の出来事を念頭に置かなければ
出て来ない台詞だ。気にするなと言っていた割に再び持ち出すとは、神経の細やかさなのか、あ
の男らしいちょっとした意地悪なのか――ともかく自分としても責任、と言われれば反論し難い
ものがあった。


そうしてその週の土曜日――

――もう遅すぎだろうか?

アルバイトとして働いているガードマンの仕事は、いつもであれば夜の10時には上がれる。だが、
今日に限って次のシフトに入る予定の者が遅れたものだから、結局上がれたのは11時過ぎ。金子
の家の前に着いた時には、既に夜中の12時を回っていた。

P…P…P…P…

正面玄関の所でインターフォン横のテンキーを押す。

<……はい>

インターフォン越しから、あからさまな気だるい金子の声が聞こえた。

「ああ……俺だ、土田だ。遅れてすまん。もし、もう遅いのなら……」
<今開ける>

プッ……

話の途中でインターフォンが切れ、正面玄関が独りでに開いた。



「遅れてすまなかった。バイト時間が急に延びた」
『ああ……だろうな』
「……本当にいいのか。こんな遅くに上がりこんで。日を改めても構わんぞ」
『ここまで来てか?第一、明日はお前はバイトはないんだろう?俺は宵っ張りだ。別に構わない』

確かにアルバイトは月・水・木・土曜日なのだが、どうして金子はそんなことまで把握しているのだ
ろう。そんな話をしたことがあっただろうか……?

金子は、こちらには焼酎をロックで、そして自分にはソーダ割りで用意した。
通されたリビングの、やや明度を落とした照明も、クッションの効いた上質で大きなソファも、当然
ながら先週のままだ。何とは無く落ち着かない気持ちになるのは、やはり「前科」からまだ一週間
しか経っていないからなのだろう。
だが焼酎ならば酔う事はないはずだ。

今日は絶対に同じ失敗は繰り返さない――土田は心の中でそう固く誓った。





『なあ……』

焼酎の瓶もそろそろ空になるのではないかという頃、キッチンから戻ってきた金子が元居た正面
のソファではなく、自分の隣に座ってきた。

「何だ」
『お前は自分の裸に気づかなかったか?』
「……は?何の話だ」
『先週末、お前の背中に何箇所も吸い付いてやったんだが。それに……まあこれは故意ではない
が、少々引っかき傷も……な』
「なっ……」
『剣道をやる時は、やはり上半身裸で着替えるものか?』

一瞬、二の句が継げなかった。サーッと自分の顔から音を立てて血の気が引いた気がした。
剣道だけではない。アルバイト先でも制服の中のTシャツは着替えていた。当然、その時上半身は
裸になる。

『なあ、あの日以降も堂々と背中見せて着替えてたんだろう?』
「……っ!お……まえ、何故そんな事をするっ……!!!」
『人にはあちこち痕を付けておいて、俺が付けるのは無しだって言うのか?』
「……っ」

確かにそうだ。金子の首筋のあの痣がそうだというのなら、俺の方が遥かに目立つ所に付けてい
る。

『首だけじゃないぜ。胸にも腹にも……ああ、太ももの内側の、際どい場所にもあったな』
「!!!」
『お前は背中だろう?だけど、俺の首筋のは隠しようもなかったぜ』
「そ……それ……は……すまなかった」

ああ……何ということだ。無論、俺の背中などまじまじ見る者はいないだろうが、それはともかく
この一週間、俺はこれ見よがしに背中の怪しげな跡をみんなに晒していたということか。

先週から、自分は一体何をしているのか。己のこととはいえ、まるで誰か別の者の話を聞いている
かのような、信じられない行動の数々……自分は、いつの間に誤った道に踏み入ってしまったのか。
自分に金子を責める資格はない。全くない。よく考えてみれば、ではタートルかハイネックを着れば
首の痕は隠せるではないか、とも思うが、今となってはそれさえももうどうでもいい。
それよりも、せめて背中にそんなものを付けたのならば、一言そう言っておいてくれれば良かった
ではないか、と……ん?

「金子……この手は何だ……」
『は?ああ、これか?何だろうな?』
「何だろうな?じゃないっ。お前がやってるんじゃないかっ!!」

気が付いたら、いつの間にか金子の右手が俺の下腹部をズボンの上から触っている。

『まあまあ、いいじゃないか。今更だろう?』
「いい訳があるかっ!俺はっ……その、先週のことはともかく、基本はノーマルなんだっ……!」
『俺だってそうさ』
「ならばこの手は何だ?!それとも、お前はノーマルでこの手だけ○モか?!」
『ぷ……面白いことを言うな?じゃあ、お前はココだけ○モなんじゃないか?』
「何?!」
『だって先週末俺はお前のコレに散々突かれたっていうのに、今更そんなことを言われてもな』
「!お、お前、露骨にそんなことを言うかっ?!」
『だって事実じゃないか。少しは思い出したんだろう?あの時は、随分激しかったなあ……』

ああ……金子は先週の俺の姿を思い出してるのかニヤニヤしながらも射すくめるようにこっちを
見ているし、もうこの家どころか東京から即刻逃げ出したい……。

『大丈夫だ、俺も少しはあれから知識を得た。この前より上手く出来ると思うぜ』
「はぁっ?!一体何の話だっ!!はっ、まさかお前これが目的っ……っ?!」

金子の手が、急にズボンの上からその形をなぞるように擦り上げてくる。そうして、一瞬俺の体が
硬直したその隙に、いきなり座っている足の上に馬乗りになってきた。

「ま、待て!!待ってくれっ!!」
『待たない』
「駄目だっ!絶対に今日はせんぞっ!!」
『……。お前が酔っ払って俺を襲うのは有りなのに、俺が酔っ払った時は断固拒否か?』
「!だ、だってお前、さほど酔っ払ってないのでは……」

そう言いながらも金子の顔をよく見てみれば、確かに目元はほんのり赤い気がする。だが、口調
はいつも通りだ。それとも、こうやって絡んでくるということ自体が酔っ払ってる証拠なのか?

『焼酎はあまり飲まないと言っただろう。だから酔いがまわり易いんだ。先週のお前のワインとあ
る意味同じだ。安心しろ、女役をやれなんて言わない』
「だから、女役とかそういう問題では――」
『お前なぁっ、そんなに俺が嫌か?!俺を抱いたくせにっ!』

金子が突然、叫び声をあげた。
声を荒げる金子を、初めてみた。
確かに俺には絡んでくる事が多かった。
他の人間には愛想がいいというのに。
でも、この男はいつも冷静だった。
声を荒げる事など、ないと思っていた。

どうしてそんなにムキになる?
お前はいつも俺をからかってばかりいたのに。
これは酔っ払ったせいなのか?
それとも……

金子の顔が近づいてくる。これが何を意味するかは、当然分かった。だが、黙ってこの男の唇を受
けた。

そんなに俺が嫌か?!俺を抱いたくせにっ!

そんな気持ちにさせたのは、少なくともきっかけを作ってしまったのは自分なのだから――とりあ
えず今回ばかりは応えてやらざるを得ない、そう半ば覚悟を決め始めていた。
少なくとも、俺が受ける方ではないのだから、多少なりとも気がら……あ……?

――こ、こいつ、キスが上手い……?!

金子は両手で俺の頭を抱えるようにして包み込み、己の顔の角度を変えて幾度となく俺の口内
を犯す。
いや、犯されている訳ではないが、舌で口の中を隈なく愛撫され、貪られ、さらには完全に受動態
で舌を絡められているこの状況は正しくされるがまま状態だった。

まずい……これは俺が受け体制ということではないのか?
女役はやらせないと言っていたが、これではリードしているのは完全に金子だ。何だかんだいっ
ても金子も男なのだし、どこかで巻き返しを図らないと、まさかとは思うが気が付いたらいつの間
にか自分が押し倒されていた、なんていう可能性はないか?

『……ん……ぁ……』

金子が僅かな口の隙間から、鼻にかかった溜息交じりの声を洩らした。頭を包み込まれて暑い上
に、熱い吐息が、喘ぐようなか細い声が、唇や歯や耳を刺激する。
再び金子に口を塞がれると、金子は片手を頭から離して、ツツ……と俺の首筋から胸を指でなぞっ
てきた。

「っ!」

つい、身体がビクッとなった。
普段刺激を受けることなど無い胸の突起に、金子は服の上から指を這わせると、緩急をつけて指
の腹で擦り始めたのだ。

これはまずい――咄嗟に思った。
最初は単に奇妙な感じがするだけだったが、やがて金子の指の動きに合わせてそこがじんじんと
痺れた様に、奇妙な心地よさを訴えてくるのが分かる。

これは完全にまずい。このままでは確実に俺が押し倒される――そんな危機感を感じた土田は即
行動に出た。金子の腕を掴んでその体を引き離すと、素早くその肩を掴んで体を横に倒し、こちら
側に向かせながら上に圧し掛かる。

『つ……ちだ?』

金子は驚いたような顔をして見上げてきたが、すぐにこちらの真意でも察したのか、いつの如く
薄い笑みを漏らした。

『どうした。ついにやる気になったのか?』

だが、受けにされるのを警戒した、と正直に言う訳にもいかないので、ここは黙って行動に移すこ
とにした。
唇でその口を塞ぎながら、金子のシャツのボタンを外していく。元々この男はボタンを3つ位外し
ていたから、前を肌蹴させるのは簡単だった。そうして白い肌をあらわにすると、金子が背中に腕
を回してくる。

とにかく、もうここまで来たら後戻りは出来ない。あとは前進するしか道はないのだ。
金子の唇を解放すると、今度は耳の輪郭に唇を押し付け、舌先で舐めながらその平で、すべすべ
とした胸を片手で撫でていく。すると、金子の体が僅かに震えた。

『ふ……つちだ……すぐには入れてくるなよ……?』
「……は?」
『だから……慣らしてからじゃなければ、痛い……』

一瞬、何の事を言っているのか分からなかった。

「あ……ああ、そうか。すまん」

先週の出来事を暗に言っているのか、と思い当たって気まずくなった。
今日は優しくしてやらねば――そう思った。





『ん……っ……ぁ……』

すごく巧み、という訳でもないのに、土田の手や唇に愛撫されると、身体が熱くなって、独りでに
息が乱れる。熱を持った自身の身体が、もっとこの男を欲しい、と要求している。
さりげなく覚えたての知識を耳元で囁いてやったら、土田は慣れない手つきながらも濡らした指
を臀部の狭間に這わせ、そうして入れてきた。

『!っつ……』
「痛かったか……俺は……どうすればいい?」
『大丈夫だから……続けていい』

さりげなく目線をずらして横を向くと、目立たないように歯を少し食いしばり、蠢く指の異物感に
耐える。例え指一本でも、痛い。何しろこんな経験は――先週はともかく――ないのだ。心地よい
訳もなかった。
確かにキスをされ、胸を撫上げられれば自然、身体は敏感に反応する。だが、それで痛みから解放
される訳でも、況して不快感が快感に変わる訳でもない。あるとすれば、その指がこの男のもの
だとの思いが奇妙に心を沸き立たせるというだけだ。だが、ここで痛いなどとは言えない。言っ
てしまったら、きっと土田は止めてしまう。
金子は薄く深呼吸しながら力をなるべく抜いて、自分の体が痛みに慣れるのを待った。

――やはり、催淫剤無しではそう簡単に快楽を得られる訳もないか……。

頭の片隅でそんな風に冷静に思う自分が居た。いくら心が土田を受け入れたくても、身体はそう
はなってくれない。それも自然の摂理から外れている証左なのか。
もどかしい、と思った。何故この気持ちは身体に伝わってくれないのか。どちらも自分のことだと
いうのに。

土田の顔を見上げると、心臓の鼓動が微かに上がる。
痛くてもいいから……受け入れてしまおうか?無意識に土田の顔に触れようと、金子が手を伸ば
しかけたその時――

『!っあ……っ?!』

伸ばしかけた手が止まった。全身がビクッと大きく戦慄いた。瞬間的に、思わず腰を浮かせる。

「金子?」
『……う……今、何をした……?』
「は?何とは、何だ……」

土田の顔に?マークが浮かんでいる。
自覚がないのか。己のしたことだというのに。だがそれは自分も同じだ。己のことだというのに
自身の身に今何が起こったのか、よく分からない。分からないのだが、土田の指が自分の内部の
どこかに触れた途端、まるで電流が走るような刹那的な快感が一瞬身体を貫いた。
だがそれがどこかも分からないし、何かも分からない。

――一体、今のは何だ?

『っ!?あっ……っ!!!』

土田の指が内部で蠢き、再びその場所に触れられた。そこを擦り上げられた途端、一瞬頭が真っ
白になるような刺激が身体を突き抜けて、独りでに背中がのけ反る。

『んっ……あっ……っ!!つ……つちだ……ぁっ!!』

土田が俺の反応からその場所を特定し、そこを指で押しながら何度も擦り上げてくると、もう駄目
だった。いてもたってもいられない、抑制しきれない強く甘い感覚が次々と襲ってきて、声を押し
殺すことが出来ない。身体を捩じらせて、無意識にそこから逃れようとしたが、土田の指を締め付
けたままでは逃げられる訳もなかった。

『あっ……っ……だ……だめ……だっ……!!』

土田がそこばかり執拗に責めてくるものだから、達してしまいそうになる。前も触られてないとい
うのに、その先端は先走るものを滴らせていた。

『!くっ……は……あっ……!!!』

内壁への圧迫感が増した。中に入っている指の動きがバラバラなことで、初めてその数が増やさ
れたことに気づく。

もう痛みがどこまであるのかも分からない。どこが痛いかすら判断がつかない。苦痛がなくなっ
た訳ではないが、それ以上に襲ってくるものに感覚が支配されているようで、段々他のことが考
えられなくなっていく。
身体を支える何かが欲しい、と手を横に伸ばすが、ここはソファの上だ。ベッドのように幅に余裕が
ないから、何かを握り締めて身体を支えようにもただ空を切るだけ。
だから、手を上に伸ばして土田の肩を掴んだ。

土田は何かを掴もうとした俺の姿を見て、何か求めていると勘違いしたのかもしれない。真意は
ともかく、俺が土田の肩を掴むと、土田のもう一方の手がすっかり濡れた俺のものに触れてきた。

『!はっ……あっ!!!』

快楽の波に一気に引きづられそうになって、ぎゅっと目を閉じたら、目尻が濡れた。

――駄目だ!
必死に自尊心で、持っていかれそうになる自分を抑え付ける。こんな状態で1人でイってしまうの
は恥だ。指だけで達する訳にはいかない。
それはある種の意地だった。快楽に身を任せるのは嫌いじゃないが、この男の表情があまり変わ
らず、さほど乱れてもいない姿を見れば、それが全くの下らないプライドとも言い切れないはず
だ。

俺はやっとの思いで土田の腕を掴み、後を引く快楽の波をやり過ごすと、薄目を開けて土田を見
上げた。

『つちだ……もういいから……こいよ……』

息も絶え絶え、なんていうのはみっともないから腹に力を入れて言葉を発したつもりだったが、
やはりすらすらとは言葉が出てこない。だが、何とか口角を上げて顔だけは笑みを浮かべること
に成功した。

「大丈夫か……?」
『ああ……』

己の指を抜いて俺の調子を窺うように覗き込んでくる土田の顔は、多少は蒸気しているものの、
やはりいつもとさほど変わらぬ表情に見える。
こっちが崩れ落ちそうになっているというのに、何だか面白くない。
何とかこいつのこともイかせなければ――誘っておいて自分だけ達したんじゃ独りよがりだし、
何よりみっともないことこの上ない。男としての誇りにも関わる問題だ。

『っ!!』

何てことを暢気に考えている場合じゃなかったのだ。
土田が俺の片足を持ち上げて自分の肩に乗せると、土田の熱く十分な硬度を持ったモノが押し入っ
てきた。

『あっ……は……!!!』

未だ先の方しか入っていないというのに、苦しくて腰を浮かせた。慣らした後とはいえ、指とでは
質量が全く違う。力を抜け!と己を叱咤してみるものの、やはり堪えられなくて力が入ってしまう。

「……金子、頼む……」

ハッとして土田を見上げると、俺に締め付けられて苦しいのか、少しばかり眉間に皺を寄せている。

俺はその頭を掴んで引き寄せると、土田の唇を奪った。
こちらに集中すれば力は抜けるはずだと思って、強引に舌を侵入させると吸い尽くすかのように
奴の口膣を貪った。土田のことなど構わず無我夢中にしていたら、専ら受動態だった土田の舌が
絡んできて、心臓が跳ねた。

どうしたんだ、土田?
ここまできて今更と思われるかもしれないが、土田は単に俺に釣られてこんなことをしているだ
け――不本意な行為のはずだ。それなのに、何故土田は応えるのか。うっかり釣られでもしている
のか。状況からいって、土田が完全なるまぐろ状態だったとしても、文句を言うつもりもないのに。
たったそれだけのことなのに、胸が熱くなった。
と同時に、この男と触れている場所の全てがこいつの存在を感じて悲鳴をあげる。

『あ……っはぁ……ん……っ』

――キスはこんなに感じるものだったか?
貪り、貪られることで快楽の嵐が下半身から、首から上に移ったような気がした。

『っ!!』

――その時、ズブズブ……という湿り気のある音が聞こえたような気がした。
と同時に、繋がった場所が引き伸ばされ、土田のモノが容赦なく侵入してくる。

『くっ……あっ……っ……!!!』

もうキスを続ける余裕もなく、土田の髪の毛をぐしゃりと掴んで体を仰け反らせた。

「金子……大丈夫か……?」
『あ……あ……だいじょうぶ……だ……』

腹の内部の奥まで侵食され、埋め尽くされるような感覚は想像以上だった。こんなに身体の深い
ところまで侵入するなど想像以上で、身の危険すら少々感じた。

――苦しくて、息が上がる。でも……。

目を開けて、土田の顔を見上げた。

「金子……」

自分の名前を呼ぶその低い、優しい声に、身体が甘く反応する。繋がった場所が熱かった。

『……全部……入ったのか……?』
「……まあ……そうだな……」

何故か、土田は照れたように顔を赤くした。
まあ、そうだな――って、その歯切れの悪さは何だ?未だ残ってるとでもいうのか?土田、お前
は俺を殺す気なのか?!
という突っ込みはすぐさま脳裏に浮かんだが、何故かそれよりも照れた土田の方が俺には遥かに
気になった。

『つちだ……?』
「いや……」
『何だ……どうした……?』
「……いや、俺達は今繋がってるのだな……と、改めて思った」
『!』

――バカ野郎、何てことを言うんだ。
こんな体勢で、こんなに近いところに互いの顔がある状態で、そんなことを言われて俺にどう返
答しろというんだ。
そうだな、俺たち、繋がってるな、と爽やかに微笑んで見せろとでもいうのか?


『あっ……!!』
「く……!」

そんなことを考えたら、急に腹の内部に収まっているこの男のモノの感触を強く身体が感じた。
そして何故か、土田も同時に声を上げた。

「金子……そう締め付けるな……」
『は……え……俺、か……?』

そうか、自分が俺がしていることなのか、などとすっかり快楽以外の刺激には鈍くなった頭の中
で考えて、ゆっくり一呼吸した。感じると締め付けてしまうものなのかと今更ながらに理解する。

身体の緊張を解き解そうと、新鮮な空気を吸って僅かばかりでも熱を冷まそうとした。

「……金子、そろそろ動いても、平気か?」
『……ああ』

もう少し待て、とも思ったが、俺は何故か頷いていた。
どうして俺はこいつに弱いんだろう?と内心大いに首をかしげながら……。





『あっ……ああっ……んんんっ……あっ!!!』

土田が内壁をえぐるようにして自身をギリギリまで抜くと、ズンという衝撃と共に再びそれが奥ま
で一気に貫かれる――その繰り返し。
最初の内、その動作は緩慢としていたが、土田にだって限度はあるだろう。段々と腰を使い、速度
を上げていった。そうして律儀というか、さりげなく意地が悪いというか――先程根を上げそうに
なったあの強い刺激をもたらす一点の辺りを狙って突いてくる。

俺はと言えば、もう端から余裕などなくて、ただ必死に、もがくように土田の背中にしがみついて
いた。頭のどこかで、間際まで追い詰められている自分を自覚する。
己の発する嬌声が土田を追い立て、それがこちらに跳ね返ってくるのだと気づいたが、といって
抑えることなど出来ない。喉はカラカラだというのに、何故か目は霞み、涙が目じりに溜まった。

――ああ、もう早くイってしまいたい……いやいや、駄目だ、耐えろ!
俺は自分自身に必死に言い聞かせる。
せめて土田が自分と同じ位高みにたどり着くまでは、先にイってしまいたくない。自分だけが早々
に達してしまうのは、どうにも許せなかった。
だから、必死に耐えた。
身体が震える。下半身など、けいれんを起こしてそうだ。もう何かを考えることも出来ない。気を
抜くと意識さえも飛んでしまいそうだ。寄せてくる波に身を委ねられたらどんなに楽だろうかと
思いながらも、どうしても自尊心が邪魔をして、それを許さなかった。

だけれど、俺がこうやって歯を食いしばれば食いしばるほど、どうやら土田を締め付けてしまって
いたようで……土田はふいに俺の下腹部に手を這わせ、先走りに濡れた俺のものを掴むと、こと
もあろうか扱き出した。

『あっ!!!やっ……まっ…っあああっ!!!』

何度となく高い山を越えてきたというのに、よく頑張ったと自分を褒めてやりたい位にここまで
必死で耐えてきたというのに……扱かれたら、あっという間にイってしまった。

「!!くっ……かねこっ……!」

とすぐその後に、急激に締め上げられたのか、土田が俺に釣られて達した。


俺の中に放出した土田が、腕の中に倒れこんでくる。

――ああ……良かった……これならば、殆ど同時だな。
俺は朦朧とした頭で安堵した。



「……すまない」
『……?何?』
「……その……中に出してしまった……」
『あぁ……別にいい』
「……」

遠くで土田の声が聞こえていた。だが、俺はその問いかけに無意識に返事をしていた。
正直、土田の心配などどうでも良かった。何も考えられなかったと言った方が正しいかもしれない。
四肢に広がる、この充実感――今度こそ、本当にこの男と繋がったのだ。例えそれがどんな手段
だったとしても、少なくとも、先週末よりは遙かにまともな状況だ。
土田と繋がったという事実が何故こんなにも満ち足りた気分にさせるのか、自分でも不思議だっ
た。

土田が少し身体を起こしたので、それを見上げたら、ふいに手が近づいてきた。指が額に触れて、
ビクッとする。急に意識が元のところまで戻ってきた。
土田は俺の額に張り付いていた前髪を丁寧に指で引き剥がすと、そのまま髪の毛を撫でてきた。

『な……ん……』

何をしているんだと問いたかったのに、喉がカラカラで、声が掠れて出なかった。触れてくる指が
優しすぎて、困惑した。

断りきれずに俺を抱いた男が、どうしてこんな事をする?
早く身体を離せばいいじゃないか。お前の義理はこれで済んだだろう?

思いもかけない刺激を受けて、徐々に冷めていくはずだった身体の中から熱を感じる。このまま
手を離せる程の冷静さは――未だ無かった。


『……つちだ。一週間ぶりだ。まだ足りない』
「……は?」
『今更、1度も2度も変わらないだろう?』
「……お前は……」

土田の呆れた顔に、俺は内心ホッとした。嫌そうな顔をされなくて良かったと。

――せっかく掴んだチャンスなんだから、そう簡単に放してやるものか。

俺は土田の首に手を回して、そのまま口付けた。



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