CHAPTER 1 : FLOWERS OF LOVE 1


『何だ?干物?』
「祖父からだ。酒のつまみにと」
『この御守りは……』
「祖母からだ。学業成就にと、年明けに祈願してきたようだ」
『――で、これが……ワイン?へえ、鹿児島でもワインを作っているんだな』
「それは親父だ。お前は焼酎が好きではないだろう」
『そうか……何だか、気を遣わせてしまったみたいだな』



年末年始の5日間、土田は鹿児島の実家に帰っていた。
俺も実家――といっても、このマンションから車で30分位の距離だが――で色々と強制的にスケ
ジュールを入れられていたから、マンションに戻ってきたのはつい昨日だった。
そうしてあくる日の今日、土田が帰ってきた訳だが――案の定、土田は実家で前のアパートから
引越した理由を訊かれていた。家族にどう言い訳をするのかは俺も気になっていたが、土田曰く
”大学の同級生と住んでいる。学校に近くて便利だと誘ってくれた。同居に際しては色々と便宜を
計ってもらい、世話になっている”――という様な無難な説明で納得してもらったらしい。
だがそれはともかく、律儀な土田一家は”色々と便宜を計ってもらい、世話になっている”という
部分に少しばかり大袈裟に反応したようで――その結果が俺にも用意された数々の土産だった。



「それから、これなんだが……」
『未だあるのか?』
「ああ」

大きな風呂敷に包まれた、平べったいものが両手で手渡される。

『何だ、随分大きいな……』

それは確かに両手で受け取らなければならない幅だった。おまけに、多少なりとも重みもある。
金子は、その中身を訝しく思いながらも包みをテーブルの上に置くと、風呂敷を解いた。

『これは……』
「――浴衣と帯だ」
『……お前、これはお土産か?完全にその範疇を越えてるんじゃないのか?』
「いや、お袋が縫ったものだから、気にしなくていい」
『え、わざわざ……?いや、有り難いことだが、一体何なんだ、お前、ちょっと言い方が大袈裟すぎ
たんじゃないか?必要以上に世話になっていると強調したんだろう。それで、こんなに……』
「俺は本当のことしか言っておらん」
『しかしなあ……何だか……悪い気がするな』
「気兼ねは無用だ。裁縫はお袋の趣味なのだから」
『そうは言っても……この帯も、手作りか?』
「…………ああ…………それは、お袋ではないが…………」

不自然な程激しく間のあいた台詞が気になって、俺は顔を上げた。

『?では誰が?』
「…………俺だ」
『…………え?』

土田の顔を見つめると、土田はムッとした顔――本当は照れているのだろうが――をして、少々
赤くなった顔を背ける。

「世話になっているのだから、感謝の気持ちを表すようにしろと言われた」
『……で、帯を縫ったと』
「――特にそれを合わせて使ってくれということではない」
『は……?だって、この浴衣と合わせているんだろう?』

落ち着いた紺色で染め抜かれた浴衣に、白地に紺色の模様が入った帯――明らかに合わせて作っ
たはずだ。いくら照れたからといって、そこを否定してどうするのか。

「気持ちの問題というだけだ。好みのこともあるし、市販でも良い物はいくらでも売っているだろ
う。第一、お袋程には俺も縫えん」

確かに浴衣の縫製は完璧だ。買ったと言われれば、そのまま信じたに違いない。だが――土田の
腕前だってなかなかのものだ。少なくとも自分の目には、全く問題があるように見えない。

『謙遜するな。俺はむしろ、お前はこんなに裁縫が上手かったのかと驚いてる位だ。全く――女に
生まれた方が良かったんじゃないか?そうしたら、間違いなく良妻賢母だ』
「馬鹿を言うな」
『くくっ……いや、でもこれはきちんと礼を言わなければな。ここまでしてもらっては、俺も申し訳
ない』
「いや、実際お前には世話になっている」

土田は真面目な顔をして答えた。
主に家賃だとか金銭面に関わることだとは分かっているが、土田は律儀にもずっと恩義を感じて
いるようだ。代わりに料理やら掃除やら、家事をしてくれているのだから、決して一方的などでは
ないというのに――



「ところで、金子。もし良ければそれをき――」
『!ああ、そうだ、土田。お前が持ってきたこれは、すぐに冷蔵庫に入れた方がいいぞ!』
「……。わかった」

土田はそう答えると、俺が土田の荷物の中から急いで差し出したさつま揚げの箱を受け取る。
素直に箱を持ってダイニングに向かう土田の背中を見ながら、金子は密かにため息をついた。


”金子、もし良ければそれを着てみないか”――土田は絶対そう言うつもりだったはずだ。
自分の母親が縫った浴衣と、自分が縫った帯だ。試着してみせて欲しいと思うのは当然だろう。
それは、土田の言葉だけではなく、土田の黒目がちの真っ直ぐな目線が物語っていた。
だからこそ、自分は敢えて遮った。それを最後まで言わせない為に。
もらった浴衣に不満がある訳では全くない。浴衣も帯も、デザイン・質感共に好みを選ばない落ち
着いたものだし、縫製もプロ並みだ。況して自分の為にとわざわざ作ってくれたものだ。有り難く
思わない訳がない。

だけれど――
俺は男だぞ?試着して、お前の前に出てきて、似合うか?なんてどんな顔をして言えというんだ?
しかも、自分だけ浴衣を着て――お前の縫った帯を付けてだぞ?恥ずかしいじゃないか、どう考
えたって!

そう。感謝の気持ちと、試着して見せるのは全く別問題だ。嬉しさよりも照れ臭さで、自分は恥の
上塗り、とばかりに挙動不審になってしまうかもしれない――そんな予感がするからこそ、つい土
田の言葉を遮ってしまった。

着てみて欲しいという土田の願いを無視するのに、心苦しさを感じない訳じゃない。これが逆の
立場であれば――勿論自分にはそういうマメさはないが、万が一の話だ――当然着て見せろと
言っただろう。部屋の中でちょっと着てみる位、何が一体恥ずかしいんだと言い募っただろう。
せっかく作ったのに、と――土田の良心に訴えかける。当然、自分ならば譲る気はない。
だが、逆の立場は無理だ。
土田が妙に優しい目をして微笑みながら、”似合ってる”などと言ってきた日には、多分体内の血液
が、全部顔に集中する――何しろ想像するだけで心拍数が上がりそうなのだから。

何とか誤魔化しきるしかない――金子は、お土産のことをうやむやにしてしまう為に、この5日間
に起こったことをこと細かく逐一話すべきか、あるいは鹿児島について土田を質問攻めにするべ
きか考え始めるのだった。





こうして、夕食を挟んで何だかんだとやり過ごし、夜も更けた頃――

「金子」

風呂上がりの土田が声をかけてくる。

『――ああ』

金子は読みふけっていた本を閉じて、顔を上げた。
風呂に入る順番は特に決まっていないが、金子は土田と違って日々不規則になることが多い。朝
シャワーを浴びることもあれば、自分が読書やDVD鑑賞などに夢中になっていると、夜中になって
から風呂に入ったりする。
今日も金子は夕食後ずっと本を読んでいたので、土田が先に風呂に入っていた。

『今日は実家から帰ったばかりで疲れただろう。先に寝てていいぞ』

金子は一声かけると、寝転んでいたベッドから起き上がり、チラリと土田の方を見た。

「――ああ」

土田は素直に返事をすると、ベッドに腰掛ける。
金子はクローゼット内の棚の引き出しから着替えを出すと、ベッドルームを出て、そのドアを静かに
閉じた。

あいつはあのまま寝てしまうはずだ。

夕食後も何となくソファで眠そうにしていた土田を知っている金子は、そう見当をつけた。
となると、今こそ決行すべきだろう。
金子は、バスルームではなく本棚などがある隣の部屋に、静かに移動した。そこでお目当てのも
のを飾り棚から取り出すと、バスルームに入って扉をきっちり閉める。

そうしてから、金子は持ってきたものを広げた。
紺色に染め上げられたソレと、白地に紺色の模様が入ったソレ――今日の夕方、土田からもらった
浴衣と帯だ。


土田の着て見せてくれという願いは、近い内に叶えてやらなければならないだろう。でなければ、
もらっておきながら礼にも反する。だが、その前にまずは自分1人で着てチェックしておいた方が
いい。さらりと着て、”似合うか?”と余裕の顔で問いかける為にも、前準備は必須だ。

だからこそ、今日は敢えて本をずっと読んでいたのだ。土田に、着て見せてくれなどと再び言い
出す機会を与えないために。



金子はお風呂を済ませると、早速未だ温まったままの体で浴衣に袖を通した。
さらりとして、着心地がいい。
土田の母が自分の為に作ってくれたものなのだと思うと、何だか照れくさいが、好意は素直に受
け取るべきだとも思う。それに、土田もまた、かつてはこうして自分の母親の作ってくれた浴衣や
服に袖を通したのかもしれないと思うと、微笑ましい気持ちにもなる。

――まあ、悪くないんじゃないか?

金子は洗面台の鏡で自分の姿をチェックしつつ、襟元を整え、袷を閉じる。だが、そこで金子の手
が止まった。
この浴衣と帯は、ホテルに常備されているような寝間着代わりの簡易な浴衣セットとは違う。当然
帯の結び方も、スニーカーの紐みたいにちゃっちゃと結べるようなものではない。それは、これま
できちんとした浴衣を着たことがない金子にも分かる。
問題は、帯の結び方が全く見当もつかないということだった。

適当でいいよな、どうせ人に見せるものでもないんだし……そう思って、蝶々結びにでもしよう
とした。だが、女性の着物の帯のように太いものではないが、それでも生地はしっかりしているし、
それなりに幅もある。多分無理に蝶々結びなどしたら型崩れする可能性もあるし、第一見かけも
大きいリボンみたいになるだろう。

――いくらなんでも、それは情けないな……俺ともあろうものが。

金子は帯を腰に巻き、両手で両端の長く余った部分を持ちながら悩んだ。
例え誰にも見せない試着であっても、”大きなリボン”では納得がいかない。いくらなんでも格好が
悪すぎる。間違っていても、それなりの形にすべきだろう――些細なことでも、一度気にし出すと
納得がいくまで止められない金子のこと。

いっそ、独創的な結び方にでもしてみるか――すっかり”ちょっと着てみる”という目的を忘れて、
頭をフル回転させるのだった。





一方、布団に入った土田は未だ眠ってはいなかった。
今日鹿児島から飛行機で戻った後、電車を乗り継いでここまで帰ってきた。殆ど座ってばかりの姿
勢のせいで却って疲労感が身体に残る。実際、夕食を済ませた後は少し眠かった。
だが、いつもなら布団に入ると早々に眠りに落ちてしまうのに、今夜はどうも目が冴えていた。

5日ぶりのこのマンションが落ち着かない、という訳ではないのだが、何故だか気持ちがざわつ
いていた。

――どうしたのだろう?

当の本人にも全く見当のつかない心を持て余して、ふと金子のことが頭に浮かんだ。

時計を見上げ、土田は思いのほか時間が過ぎていたことに気づく。金子が風呂に入ってから、既
に1時間が経過していた。元々金子はバスタブに入ると物思いに耽る性質らしく、たまに30分位平
気で浸かっていることもある。だが、さすがに1時間は長い。

まさか、風呂場で気分でも悪くなったのではないか。

土田は静かに起き上がると、バスルームに向かう。近づいてみて、全く物音が聞こえないことに気
がついた。もし相当な長風呂だったとしても、水音なりなんなり聞こえてもいいはずだ。それが、い
くら耳を澄ましていても殆ど音が聞こえないのは何故なのか。そう思うと、何だか本当に心配に
なってきた。

もしかして、倒れてるのか?――土田はバスルームのドアを勢いよく開けた。

「っ!」
『っ?!』

ドアを開けると、金子は風呂場ではなく、すぐそこの脱衣場に居た。鏡の方を見ていたのであろう
金子が、まるで逃げ場所を失ったかのようにこちらを向くと、慌ててバスタオルを自分の体の前に
持ってくる。
正直なところ、バスタオルなんかで前を隠しても何の意味もない。バスタオルで隠せる部分など、
せいぜいが胸から膝上辺りにかけてまでだ。だから、紺色をまとった肩も、両腕も、そして膝下の
方も丸見えだった。
それでも思わずバスタオルを掴んでしまうとは――それほどまでに恥ずかしいのだろうか。
裸以上に、浴衣を着ているその姿が。


『馬鹿!!お前、失礼だろう!ノック位したらどうなんだ!』
「あ、ああ。すまん。遅いから貧血でも起こして倒れているのかと……」
『生憎、全くどこもかしこも異常なしでピンピンしている!分かったら寝てろ!』

金子は、土産の浴衣をこっそり着ているという事実を丸ごとすっぽり無視したように、自分の姿に
ついては一言も触れずに、言いたいことだけ言ってそのままバスルームのドアを閉めようとした。

「!待てっ」
『!何だ、未だ何か用があるのか?!』

咄嗟に閉められそうになったドアを押さえると、金子がさらに怒る。だがその顔は怒りだけではな
く――何やら困惑したような表情をしていて、少々頬が赤くなっていた。

「せっかく着ているのだから、見せ――」
『駄目だから出て行けと言ってるんじゃないかっ!』

金子は人の言葉を遮ると、ドアを無理に閉めようとする。だが、ついこちらもムキになって、ドアを
押さえた。

「何故だ!」
『どうでもいいだろう!』
「そうはいかん!」

ドアを無理やりに引こうとする金子の手首を掴んだら、金子はドアを閉めるのを諦めた代わりに、
不機嫌そうな顔をしてそっぽを向いてしまった。

「……お前に似合うだろうと思って用意したものだ。俺だって、見たい」
『……そんな事は分かっているっ』
「では、何をそんなに怒っている」
『――ホントにお前ってヤツは、デリカシーがない……』

金子は、未だ怒っているのか不満げにブツブツ言っている。

試着した金子を見たいと思う自分と、その気持ちは分かっているという金子――それなのに、丁
度着ている今、何故見てはいけないというのか?

土田にはどうも分からなかったが、それはさておき、金子が手を離したドアを開けた。


大きな洗面台の鏡の前で、憮然として横を向いたまま立っている金子――だが、紺地の浴衣は白
い肌をしたこの男によく映える。ただそこに姿勢よく立っているだけなのに、その姿は涼やかで
品格さえ漂っている。実際、初めて見た浴衣姿は今までに見た金子の雰囲気とは全く違っていて、
花のように楚々としていて、しおらしささえ感じる。下ろされた手に持つバスタオルさえ、何がしか
の意味があるように見える。

「――よく似合っている」
『!俺に合わせたのなら、似合って当然だ……っ』

涼やかな見かけとは裏腹に、相変わらず刺々しい金子の口調――だが赤く染まった頬は、怒りの
せいだけではないように見える。
そんな金子に、土田は微笑ましいような、といってそれだけでは説明しきれないような何かに突
き動かされて一歩足を前に踏み出した。その時――鏡に映る金子の背中に気づいた。

「――……金子、後ろを向け」
『!!な、単なる試着なのだから、もういいだろう!』

金子が一瞬、ドキッとしたような顔をする。
確かに、前から見た金子の浴衣姿はキレイに整っている。だが――その背中に見逃せないものを
見つけてしまった。あれは、いかん。
一度気づいたからには、どうしても直したいと土田は思った。何だかよく分からない形になってい
る、アレを――

「そういう訳にはいかんだろう」

金子が後ろを向きそうにないので、土田は逆に自分が金子の背後に回ろうとした。だが、金子は
背中を見せまいとして、くるりと自分の方に向いてしまう。

『もう終りだ、終り!』
「……何故後ろを向かない?」
『大した事でもないのに、お前が拘るからだっ……』

――それはお互い様だろう。

土田はそう言いたくなったが、今は口論をしている時ではない。
土田は、金子の左肩に右手を伸ばした。すると、それを察知した金子が、肩を取られてなるものか
と左肩を引く。と同時に、右手で土田が伸ばした手をぱちんと叩いて跳ね除けようとした。

土田は、普段はあまり俊敏な方ではない。物腰が落ち着いて堂々としている、と言えば聞こえは
いいが、運動神経には全く問題がないにもかかわらず、要するに周囲をあまり気にしないせいで
どうしてものっそりとした動きになってしまうのだ。
だが、金子が自分の手を払いのけようとして、浴衣の袖が眼下を舞ったまさにその時――剣道の
鍛錬の賜物とも言うべきか、土田はそこに一瞬の隙を見て取った。そうして、いつもならば竹刀で
瞬時にその隙を突くか叩くかするべきところを――代わりに引いた。
正確に言うと、金子の右腕を左から右へと左手で引っ張った。
悪気があった訳ではない。これを引っ張ったら回るかもしれないとふと思って、やってみただけ
だ。だが、元々金子は左肩を引いていた。そんな時に右腕を左から右へ引っ張ればどうなるかと
言うと――金子は、一瞬の内にあっさりと半回転してしまった。

『!?!?』

金子はあまり一瞬のことで声も出なかったのか、背を向けたまま無言で固まってしまった。
あっさりと後ろを向かされて、ショックを受けているようだった。

その隙に、土田は金子の腰を掴んで帯の結い目をじっと見る。

「――……変わった形だな。花でも作っていたのか」
『!!そ、そうじゃない!!仕方がないだろう!男の浴衣姿などまともに見たこともないんだ!
正しい帯の結び方など、分かるはずがないだろう!』

ハッと我に返ったらしい金子は、土田に腰を掴まれて振り向くことも出来ず、それでもすぐさま矢
継ぎ早に反論する。

「いや……ただ面白いことをするなと思っただけなんだが……」
『――て、その割りに笑ってもいないじゃないか!!ああ、もう、だから見せたくなかったんだ!!
可笑しかったら笑えよ!いっそその方がよほどマシだ!それとも、笑えない程に呆れているって
いうのか?!』

金子の反論に、土田はどう答えていいものかと困惑した。
確かに――こんな帯の結い方は見たこともない。どうやってこんな風に器用に出来たのか分から
ないが、金子の腰の辺りに付いているソレは、蝶々結びよりさらに複雑で――本当に、花のように
見えた。自分にしてみたら、間違っているとはいえ、器用なことをしたな、と思うだけなのだが、あ
れだけ隠そうとしていたところを見ると、金子はこれを見せるのが余程恥ずかしかったようだ。

何もそこまで隠す程のことでもなかろう。締め直せばよいだけではないか――物事を複雑に捉
えない土田は、不思議に思って首をひねる。

『大体、何で寝てないんだ?!夕方から眠そうにしてたじゃないか!全く、一度1人で着てみてか
ら後日改めて見せようと思っていたのに、どこまでもお前はタイミングが悪すぎるっ……!』

眠そうだったなどとは、案外自分のことをよく見ているのだな、と土田は変な所で感心した。

自分はそこまで金子のことを普段よく見ていただろうかと考えて、ふと気づいてみれば、後ろを
向いた金子は顔だけでなく、すっかり耳の辺りから首にかけてまで薄紅色に染まっている。
刺々しい口調は相も変わらずだというのに――いや、だからこそなのか。
恐らく、金子は本気で怒っている訳ではない。いや、勿論怒ってはいるのだろうが、怒りよりも、む
しろ自分が照れ臭い時に人に当たるだと、今では分かる。


「――そんなに怒鳴るな」

そのまま背後から両腕を金子の腹部の辺りに回すと、金子の体がぴくりと反応する。
そんな反応すらも何やら可愛らしくさえ思えて――無論、本人にはそんなことは言えないが――、
土田は回した腕にほんの少し力を込めた。

『!誰のせいだと思ってるんだ……っ』

金子の口調は未だ刺々しかった。だが、随分と声がトーンダウンしている。
そんな金子に微笑ましさを感じたら、先ほどまでざわついていた気持ちが、いつの間にか消えて
いることに気がついた。




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