EPISODE 18 :


「トモモリ……っ……やめ……ろっ……っ!」

はっきりと水の玉が見える位大粒の雨が降り注いでいるというのに、草むらに押し倒されて、乱暴に上半身を
剥き出しにされた。噛み付かれるように首筋に吸い付かれて、ぴくっとする。
トモモリは、自分の言葉に答えようとはしなかった。もしかしたらその言葉すら聞こえていないのかもしれない。

眼下に見える生き物は、自分の知るトモモリではなく、銀色の毛並みを持つ獣のように見えた。
咄嗟に感じる抵抗感、そして小さな恐怖。それなのに、抵抗という実際の行動に移れないのは何故なのか。

”お前は、俺のもの。そして、俺は、お前のもの、だ”――

この言葉に力が抜けたのは確かだった。何か気持ちがかっと熱くなるような、そんな熱を胸の辺りに感じたのも
事実だ。だけど、それで横暴とも言えるこの状況を許そうなんて思っちゃいない。理不尽なことにも耐えられる
程、できた人間じゃない。
だけど――何故かトモモリの気持ちが、抱える葛藤が分かってしまう。それがまるでこの雨のように、自分の中
に否応無く浸透してきて、全身から抵抗力を奪い去ってしまうのだ。

トモモリは、きっとずっと我慢していた。
己に課された義務と、立場と、そして期待を背負って、本来の自分のあるべき姿を眠らせていた。
尊敬する亡き兄と、そして父親の思いを誰よりも知っていたからこそ、そしてそれを一族の者達も期待してい
たからこそ、トモモリはトモモリなりに期待に応えるよう自分を抑えてきたのだ。

でも、トモモリ1人で全てが解決できる訳じゃない。トモモリさえいれば何とかなるものでもない。
それなのに、皆――小さい頃からトモモリを見てきたツネマサでさえ、トモモリが居れば何とかなるのではないか
と期待していたんじゃないか。トモモリさえ無事でいればどうにかなるかもしれないと、トモモリが奇跡を起こして
くれるのではないかと、そう思ってたんじゃないか。

だが、過大とも思える期待をその両肩に預けられて、そうして置き去りにされたトモモリはどうすればいいのか?


「っ……!」

腰骨を掴まれたと思ったら、ジーンズをパンツごとずり下ろされた。

「って、おい、トモモリっ……いい加減にっ……!」

もうここまで来たら、止めるのは無理だと分からない訳じゃない。だけど――反応しかけた下半身が雨に打た
れてる光景を見たら、恥ずかしいやら情けないやら、どうしてこんな扱いを受けてるんだとさすがに怒りたくなった。


『……今更、何を言う』

先程まで人の言葉など全く聞こうともしなかったトモモリが、ゆっくり顔を上げた。そうして、顔を近づけてくる。
その顔は、妖艶な笑みを浮かべていた。大粒の雨を滴らせたその顔は、まるで好物の獲物にありついたような、
そんな恍惚感さえ漂っている。

「今更だろうが何だろうが、俺の勝手だろ!第一これは俺の身体だ!何の遠慮がいるんだよっ?」
『クッ……威勢がいいな……』

だが、トモモリはまるで俺の言葉など軽くあしらうかのように笑った。

『――まあ、威勢がいいのは、口だけじゃないがな……』

トモモリがそう言いながら間近に顔を近づけて視界を遮ったと思ったら、急に総毛立つような感覚が身体に走っ
て、思わず変に上ずった声が出てしまった。

「ぅあっ……!」

トモモリの指が、これがその証拠だとでも言わんばかりに固く反応している下半身を撫で回す。

欲望に濃く、紫色に光る瞳――それがずっとマサオミの目を捕らえて離さなかった。

『望まない訳じゃ……ないだろう……?』

まるで、人の弱みを握っているかのように――現実かなりそれに近いが――ゾッとするような色気を漂わせた
トモモリが、低く、ゆっくりとした口調で囁いた。

――くそっ……腹が立つ……!

そう思うのは、否定できない自分に自覚があるからだ。
悔しいが、掌で包み込むように何度も撫で上げられて、すっかり固く勃ち上がっている自身を前に否定しても
何の説得力もない。トモモリのしたり顔にも腹が立つが、それに抵抗できない自分にも苛々する。
だが――苛々するのはそのせいだけではないかもしれない。
明らかに意地悪と分かるそれで、敢えて中途半端な刺激しか与えなくなったトモモリに、段々苛々してきた。
トモモリはマサオミが素直に乞うのを待っているに違いないと思うから、決して口では認めたくはないが、この生
殺し状態は理性はともかく生理的にキツイ。

「!んっ……!」

胸の突起に歯を立てられて、マサオミは頭を仰け反らせた。
決定的な刺激は与えられずに、じわじわと詰るように追い立てられて、身体は熱くなるばかりだ。

『ずっと……意地を張っているつもりか……?』

そう言ってマサオミ自身の先端を強く擦ったと思ったら、トモモリの指はすぐにマサオミの太腿の内側へと流れて
いく。

――こいつってホントに……!

何てサディスティックな奴だと思いながら、自分の本能が求めるものを自覚しながらも、それでも自分から乞う
のは嫌だった。単なる意地であっても、そこは通したい。だけど、このままじゃ――

「あああ、もうっ……!!」

マサオミは、唐突にトモモリの肩を掴んでぐいっと突き放すと、唖然とした顔を浮かべたトモモリを無視して逆に
トモモリの腰に張り付いたパンツを下着ごと摺り下ろしにかかった。

『なんだ……クッ……俺が、欲しいか……?』

トモモリは、逆に地面に半身を倒されてもちっとも動じなかった。それどころか、笑みを浮かべて愉しそうにその
様子を眺めている。

「!……口では余裕かましてた割に、自分だって完全に勃ってるじゃねえかっ……」

今まであんなタイトなパンツによく大人しく収まってたものだと呆れる位、トモモリ自身は完全に勃ち上がってい
る。

こいつだって、やっぱり我慢してたんじゃねえかと思ってホッとするものの、心身共に余裕がなくなっている自分
と違って、トモモリはこんな状態だというのに相変わらず余裕の顔だ。

『当たり前だろう?俺は、最初からこうだったぜ?』
「あのな……それいばるトコじゃねえだ……ろ……って、うわっ」

頬の辺りに伸ばされかけていた手が、急にマサオミの肩を掴んで力強く引き寄せた。マサオミは、あっという間に
トモモリの上に乗っかっていた。

「お前なあ……っ」

だが、マサオミが挙げた抗議の声はあっさりと無視されて、トモモリの手がマサオミの肩から頭の後頭部に回さ
れると、そのまま口付けられた――といっても、口付けはほんの一瞬で、唇が軽く咬まれたと思うと、すぐさま
口は押し開かれ、トモモリの舌が絡んできた。まるで抵抗する気力を吸い取るかのように、トモモリは巧みにマ
サオミの舌に吸い付いては口膣内を舌先で突付いて、身体の力を徐々に奪っていく。
やがて身体の力がふっと抜けて、マサオミはトモモリに圧し掛かった。
自然、同じ身長の2人の腰はまるで符号するように合わさって、固く勃ち上がった互いのものが擦れ合い、互
いを刺激する。

背に受ける雨の冷たさとは対照的に、前から受けるトモモリの身体の熱が、互いの熱い吐息が身体を内側
から熱して――ふと気がつけば、マサオミは自らトモモリの舌を求めて絡め合い、トモモリの一方の手が掴む腰
を揺らしていた。

既に理性よりも本能の方がマサオミの中で勝っていたけれど、それと同時にトモモリに圧し掛かっている今の体
勢が、マサオミの警戒心をかなり削いでいた。少なくとも組み敷かれているよりは、上になって能動的に腰を揺
り動かしている方が遥かに気持ちは楽だ――そんな意識が働いているのか、いつの間にか積極的に腰を動
かしているのは無自覚なマサオミの方だった。

だが――そんなに甘くはなかった。


「!んぅぅ……っ」

塞がれた口の中で呻いたマサオミが、堪らずに顔を上げた。

「ま……待て……トモモ……リ……っ!」

触れ合う感覚だけ研ぎ澄まされた身体が、痛みに拒否反応を起こす。
だが、一度も外側から開かれたことのない場所を無理に抉じ開けようとするそれは、締め付けられる抵抗に遭
いながらもさらにゆっくりと奥へと進んだ。

「あ……つ……っ……!」

胸を逸らして指が食い込む程にトモモリの肩を強く掴んだマサオミは、苦痛に顔を歪める。これ以上の侵入を
拒んで、マサオミの全身に力が入った。

『マサオミ……来い、マサオミ……こっちへ……』

トモモリの少々掠れた囁きを漸く聞き分けたマサオミは、無意識の内に救いを求めるように顔を近づけて、そし
てキスを受け入れた。トモモリは思うように進まない指を止めると、そのままもう一方の手でマサオミの腰を掴ん
で揺すり、互いのものを刺激する。するとマサオミの意識は、徐々に痛みから快楽へと移って行った。
そうしてマサオミの身体から力が抜けると、また指を進める――その繰り返し。
漸くその侵攻が止まった時、マサオミは肩で大きく息を吐いた。


「はぁ……お前な……いきなりは止めろよ」
『一気に突っ込んではいないだろう?』

トモモリは悪びれもせずに下品な言葉を吐いた。

「当たり前だっ!」
『全く……お姫様は注文が多い……』
「お前……後で絶対一発殴ってやる」
『クッ……そんなことを、言っていいのか……?』

まるで存在を忘れたのかと言わんばかりに、挿入されたトモモリの指が蠢いた。

「あぅっ……」

マサオミは背中をびくんと震わせた。

『お前は……分かっていないな。俺が、今までどれだけ我慢してきたか……』

その言葉に、マサオミは顔を上げた。

『どれだけ、お前を求めてきたか……』
「……トモモリ……」

トモモリの固定されていないもう一方の手が、マサオミの肩から背中にかけてのラインをゆっくりと撫でていく。
マサオミの心はざわつき、身体が戦慄いた。

ロシアのトモモリのアパートでは乱暴に床に押し倒された。つい昨日は裸で抱き合った。だけど確かに、トモモリ
は2度とも無理強いはしなかった。強引なところを見せても、最後まではしなかった。
己の欲望に忠実なはずのトモモリを抑制させたのは、何もツネマサばかりではない。自分もまた、違った方向
からトモモリに我慢を強いていたのだ。しかも、それに自分は気づいていなかった。
……いや、気づいていたかもしれない。だけど、それを無視した。トモモリを好きだと言いながら、トモモリの気
持ちが分かっていながら、俺は考えないようにしていた。
今だってそうだ。自分の腹部との間に挟まれたトモモリ自身はもうガチガチに固くなっているというのに、それでも
トモモリは我慢している。我慢を強いている。トモモリは急かしてもいなければ、性急に指を突っ込んでくる訳
でもない。

結局、自分はトモモリに甘えてるんだろうか。心のどこかで、トモモリはそんな自分を許容してくれると、そう思っ
ていたんだろうか――


「トモモリ……いいぜ。動かせよ。お前だって、もう我慢できないんだろ?」

トモモリが一瞬目を見開くのを視界の端に捉えながら、トモモリの唇に吸い付いた。何度も吸い付いて、そして
隙間から舌を滑り込ませた。





「!ぅん……っ……あっ……っ……!」

マサオミは、思わずトモモリの肩を掴む腕を強張らせた。

さっきまで指で慣らされていたところに、体勢を変えたトモモリが上から自身をそこにあてがい、突き立ててくる。
何だかとてつもなく大きいものが詰め込まれたような、呼吸すらしづらくなるような圧迫感を感じて、何度も大き
く息を吸い込もうとする。だけれど、上から降り注ぐ雨のせいでなかなか上手くいかない。横を向いて必死に酸
素を求めている内に、トモモリのもので腹がどんどん埋め尽くされていった。


『言っておくが……さすがの俺も、もうあまり我慢が効かないぜ……?』

腹の内側から押されるような感覚と、痛みと、そして熱――見上げてみても、トモモリの顔は影になっていて殆
ど見えない。だから、トモモリの首に手を回してぐいっと顔を近づけた。

「はは……なんだ、だらしねえな……」

余裕がないのは自分も同じだけど、癪だからわざとトモモリの鼻先で笑ってやった。





その後は、余裕どころかもう何が何だか分からなかった。どれ位の時間が経ったのかも分からない。それ位に、
理性なんてどこかに吹き飛ばされていた。雨でキレイに流されたから分からないけど、実際には、汗やら涙やら
体液やらで、俺もトモモリも全身ぐしゃぐしゃだったんじゃないか。

大体、それもこれもトモモリのせいだ。
入れる前までは、それでも少しは気を遣ってたようだけど、入れた後はもう遠慮は無用だとでも思ったのか、あ
いつはサディスティックな本性丸出しで、人のことをガンガン責めてきやがった。
痛いと言っても無視。もっとゆっくりやれと言っても無視。
それどころか、いけしゃあしゃあと「すぐに好くなる」なんて抜かしやがって、一向に止める気配もなく、それどころ
か全く容赦の欠片もなかった。……まあ、それは実際嘘ではなかったけど。

だけど、だけどな、しつこいようだけど、こっちは初めてなんだぜ?しかも、草むらに寝かされてるんだぜ?
それなのに、一回だけじゃ物足りなかったのか、トモモリは俺の制止も無視して、抜かずに続けて3回もやりや
がった。お陰で喉がガラガラだ。腰もいてえ。しかも草であちこち擦りむけてヒリヒリする。

……それなのに、トモモリの奴、満足そうな笑みを浮かべやがって。ホント、身勝手もいいとこだぜ。

言っておくけど、俺は怒ってるんだ。次は絶対拒否してやる。あいつが人外な色気で迫ってきても、格闘技で
押し倒してきても、きっぱり断ってやる。

…………まあ、もうちょっとあいつが気を遣うっていうなら、考えてやってもいいけど……な。






TO THE EPISODE 19



一切ノ無断転写・転載ヲ禁ズ
Copyright(c) Hydri and its licensors. All rights reserved since 2005.

inserted by FC2 system