EPISODE 29 :


存分に、自然と目が覚めるまで本当にたっぷりと寝た。

タイラノフの邸宅で使ってるベッドの方が、もちろん遙かに寝心地は良く、そして広々としているけれど、色々と
考えごとがあったり、落ち着かない気分だったりして、夜が遅い割に朝は案外早く目が覚めていた。
それに――あそこにはないものが1つあった。人の体温だ。もちろん、いつも隣に誰か寝てるのが当然ということ
では全然なく、そんなことになり始めたのもごく最近のことではあったが。

未だカーテンの閉まった薄暗い部屋で、毛布を少しずらしたマサオミは、何度か瞬きしながら手さぐりでベッド
サイドキャビネットに手を伸ばし、腕時計を掴んだ。そうして目が外の光に慣れたところで文字盤を見上げる。

11時26分――10時間近くは寝たということだ。道理でよく寝たと思えたはずだ。
……というか、ちょっと寝すぎだろう。

マサオミはチラリと傍らを見る。
奇跡にも近い静かさ――想像通り、この時間でもトモモリは未だ完全に熟睡していた。こちらに背を向けてい
るが、規則的にそのむき出しの白い肩が僅かに揺れていることで分かる。
マサオミは、実はそんなに早起きな方ではない。実際、実家では大抵、母親や弟に起こされていた。にもかか
わらず、トモモリという自分より何倍も上をいく”キング・オブ・朝寝坊”と出会ってからというもの、気がついたら
自分は常に起こす側に立っていた。お陰で、何だか少し生活態度が改まった気がする。

今日だって既にお昼前な訳で、かなり遅いのだが、それでもやはり先に目を覚ますのはマサオミの方だった。

マサオミは腕時計を左手首に填めると、静かにベッドから抜け出る。そうして、毛布をトモモリの肩の上までそっ
とずらした。何だかんだいって寝ているトモモリに気を使い、世話を焼いてしまう辺りがマサオミの優しいところで
もある。
だが――2、3歩進んだところで、マサオミの優しい気持ちはほぼ消え去った。

――ケツいてぇ……しかもマジ腰だるい……。

それでも背後のベッドの男に蹴りをいれなかったのは、起こさずに出てやるという初心を貫徹したかったからだ。
マサオミは腰をさすりながらのろのろと部屋から出ると、ドアを閉めてから漸く声に出して悪態をついた。

「あいつ、マジいつもやり過ぎなんだよ……何で程度ってもんが分かんねえかな……くそ、いつか絶対やり返し
てやる……」

昨日この家に着いたのはかなり早い夕方だった。未だ日も落ちかけの頃で、当然甘ったるい調子でワインを
せがんだ時も、夜まで時間はたっぷりあった。今にしてみれば、もうちょっと時間帯を考えるべきだったが、今頃
言っても手遅れだ。
で、その結果ソファやらリビングの床やらでさんざ励まれた挙句、シャワーを浴びて夕食を済ませた後ベッドルー
ムに行ったら、そこで第2ラウンドが待っていた。本当に、心の底から第2ラウンドは断ったつもりだったが、ダメだっ
た。焦らすお前が悪い、と言われただけだった。

それを言うなら、あの様子じゃ、プリニコフの家でやるのは余計にまずかったはずだ。もし、それよりも前のことを
言っていたのなら、この2週間何もなかったのはトモモリが家を不在にしていたからであって、別に自分が焦らし
た訳でも何でもない。
以前には色々な事情から焦らしたこともあったが、今回そう言われるのは心外だし、不条理だ。

だったら、殴ってでも抵抗すればよかった訳だが。

――まあ、そんな常識が通用しねえのがトモモリなんだよな……つうか、あいつ色気有り過ぎなんだよな……
大体、耳元で英語とロシア語ちゃんぽんで囁くのは反則だろ……。

……と、思い出すだけで再び頬の辺りにぞわっときて、思わず肩を竦めるマサオミ。
どうやら、マサオミが激怒できない理由はその辺りにあるようで。そうは言っても絆されてしまった、という自覚は
あるらしい。


さて、痛む腰をさすりつつバスルームの洗面台で顔を洗ったマサオミは、それからダイニングに向かった。昨日は
せめてもの労りの気持ちを見せたのか、トモモリはローストチキンとサラダに大麦のブレッド、とそれなりの夕食を
用意してくれた。尤も、サラダとパンは朝方スーパーで買ったもの、チキンはオーブンで焼いただけということで、
手作りには程遠かったが、ソファでダウンしているマサオミの手を全く煩わせることなく、トモモリが夕食を用意し、
そうして1人で片付けまでしてくれたのだから、それだけで十分だ。
そういう訳で、昨晩はロクにキッチンを見ることもなかったから、マサオミは手始めに冷蔵庫を覗いてみた。ハム
やチーズ、トマトなど、そのままで食べれそうな物と、出来合いの物がそれなりに入っている。パンも残っている
し、これならば、朝食はすぐにでも用意ができそうだ。

昨日の礼という程じゃないが、自分が先に起きたのだから、今朝は自分が食事を作ろうと思っていた。トモモリ
のことは、用意が整ってから起こしてやればいい。

「あれ?」

だが、いざ始めようと思って、マサオミは戸惑い、そしてあちこち探した。

「コーヒー……ねえのかよ」

あらゆる棚を開け尽くしたマサオミは、愕然とした。マサオミにとって、朝のコーヒーは必需品だ。眠気覚ましと
いったら、やっぱり何と言ってもコーヒーだ。別に豆から挽きたい訳じゃない。そんな拘りは全然ない。コーヒーで
さえあれば、インスタントで全然構わないのだ。だけど、この家にどうやらコーヒーはないらしい。あるのは紅茶の
ティーバッグだけだ。
アメリカじゃ紅茶と言えばもっぱらアイスだから、マサオミが戸惑うのも無理はない。だが、考えてみればタイラノ
フの本宅でもティータイムはおろか、朝も殆どの人間が紅茶を飲んでいた。では、それ以外の少数派の者た
ちが何を飲んでいたかといえば、ホットミルクや野菜ジュースであって、コーヒーではなかった。唯一マサオミだけ
が当たり前のように毎朝コーヒーを出してもらっていたが、それがロシアの家庭ではあまりないことに、今の今ま
で気づいていなかった。

アメリカに居た時は確かトモモリもツネマサもコーヒーは飲んでいたのに――と思ったが、ないものは仕方ない。

マサオミは諦めて冷蔵庫を開いた。朝食にと考えているのは、サンドウィッチだ。昨晩食べた大麦のブレッドが
未だ残っていたから、これが使える。中身はハム、チーズ&トマトで1種類はできるし、出来合いのサラダがあ
るから、そこからレタスや卵などを抜き取れば、もう1種類はいけるだろう。
あとはコーヒーの代わりにフルーツジュースを用意すれば、バランス的にも悪くない。

頭ですっかり献立を考えたマサオミは、顔を上げ、ダイニングとリビングを隔てるカウンター越しに、リビングに目を
やった。視線の先に捉えたもの、それはTVだ。
別に何か観たいものがある訳じゃない。第一ロシア語は相変わらず全く分からない。だが、1人で黙々とサン
ドウィッチを作るのも何だかつまらない。しんと静まり返ってるのも息が詰まる。

そうして、リビングに行ってTVの電源をつけたマサオミは、チャンネルを吟味することもなくそのままダイニングに戻
り、シンクの隣にまな板を用意すると、袋から出した大麦のブレッドを包丁で切り始めた。
その間にTVでは車や家庭用洗剤などのコマーシャルが流れ、やがて、白いシャツに濃いロイヤルブルーのジャ
ケットを着た金髪の美女が大きなデスクの席に腰掛け、話し始めた。どうやら、ニュースが始まったらしい。

コマーシャルや歌なら、言葉が分からなくてもそれはそれで楽しいが、ニュースは殆ど動きもなく、ただ人が喋っ
てるだけだから、言葉が分からないと退屈この上ない。

マサオミは必要な分のブレッドを切り終えると、リビングに再び行き、ソファの辺りに置いておいたリモコンを手に
した。そうして、どのチャンネルが繋がっているのかも分からないから、とりあえず1のボタンに指を乗せ、そうして
TVの方に向けてチャンネルを変えようとした時――マサオミの視線が一瞬、TVにくぎ付けになった。

「ん?……この顔……どっかで…………あっ!」

そこに映し出された顔写真をじっと見ていたマサオミは少し考え、そうして数秒後に思い出した。僅かに2~3
度見かけただけだし、しかも大して話したこともなかったから、すぐには分からなかった。だが、確かにそれは、自
分が知る顔だった。

マサオミはリモコンをソファにすぐさま投げ出すと、だるい腰もなんのその。走るようにリビングを出て行った。

「トモモリっ!」

ベッドルームのドアを開けると同時に、大声を上げた。だが、案の定マサオミがそこを離れた時と全く変わらず、
こちらに背を向けたまま、トモモリは微動だにしなかった。

「おいっ、起きろって!トモモリっ」

まずはトモモリの肩を掴んで強く揺すってみる。やはり起きない。想像はついていたが、それでも儀式のように毎
回繰り返してしまうのは、手荒くやる前に一応基本的なことをやったという、自分とトモモリ双方に対する免罪
符のようになっているからだ。
だが、今は時間がない。免罪符はすぐに捨て去り、つづいて掴んでいた肩を力強く引いて仰向けにさせると、
さらには毛布を引き剥がす。既に何度となくトモモリを叩き起こしていたから、毛布を剥がす+光を当てる(植
物みたいだ)のは結構効くと分かっている。だが、これもまたよくあることだが、トモモリは仮に寝ていたとしても寒
さから身を守りたい本能からか、大抵剥がされかかった毛布に無意識に手を伸ばし、その裾をがちっと掴んで
しまう。眠っているのに、どうしてそんな瞬発力があるのか、マサオミには今を以って謎だ。だが、トモモリが掴む
であろうことは分かっていたから、マサオミももちろん、毛布を掴んだまま手を離さない。

「緊急なんだ、緊急っ!」

マサオミは、毛布を掴んでいない右手でトモモリの腕や肩の辺りを複数回、強く叩いた。上半身は何も着て
ないから、パチンパチンと良い音がした。だが、トモモリは僅かに肩をびくっとさせただけだ。もうダメだ。ニュースが
終わってしまう。時間がない。

「あーっ!もう、起きろっつってんだろーがっ!!」

バシィッ!

焦った末の、咄嗟の行動だった。一大事かもしれないというのに暢気に眠り続けるトモモリに、苛々していたの
は確かだった。
だが、結構な音がした。きっと、きれいに入ったのだろう。トモモリの瞼はすぐにびくっとし、身体を動かした。痛
みも去ることながら、腹が立ったのだろう。物凄く嫌そうな顔で目を開けたトモモリは、さらに眉間で怒りを表わ
して、マサオミを睨みつけるように見上げた。未だ目が完全に開ききっていないだけに、目つきはさらに鋭い。

『……どういうことだ……』

そう、きれいにトモモリの頬に入ったのは、ビンタだった。叩いたマサオミの掌もじんじんする位、力強くやってしまっ
た。さすがのマサオミも、ここまで「痛く」起こしたことは一度もない。すぐに起きた、という意味では大成功だ。
だが、もし寝ていなかったら、トモモリに瞬殺されていたかもしれない。

「後で謝るからっ!とりあえず来てくれってっ!緊急事態なんだっ!」

一瞬ヤバイ、という顔をしたものの、すぐさま真剣な顔でトモモリの腕を取るマサオミに、トモモリもとりあえずは
怒りを棚上げし、マサオミに引っ張られるままにリビングへ移動した。


リビングに来てTV画面を指差したマサオミに、トモモリはすぐに状況を理解した。TV画面に映し出されていたの
は、亡き父の弟――つまり、現在逮捕されている、トモモリの叔父だった。




ニュースは残り僅かだった。トモモリが来てから、2分と経たずに終わってしまった。

「……終わったのか?」

画面が切り替わったことで、マサオミはトモモリの顔を見る。こちらから見えるトモモリの左頬は真っ赤だ。これが
自分のビンタのせいでなく、ニュースに興奮して、であれば良かったのだが。

『ああ……』

トモモリは小さく掠れた声で頷くと、ソファに座った。

「で、何て?」

マサオミはその隣に座ると、身体ごとトモモリの方を向き、じっとしていた。

『……どうやら、死んだようだな……』
「……な……死んだ……って、言ったのか……?」

トモモリの叔父はツネマサよりも先に逮捕されていた。ツネマサは正式には逮捕状は出ていても、未だ取り調
べ段階であって、容疑が完全に固まった訳ではない。恐らくはトモモリをおびき出すためのカードにしたいという
思惑のためか、ツネマサの取り調べは遅々としていた。
だが、叔父の方の手続きはスピーディーで、既に容疑者となり、保釈も許されずに裁判を待つ身となっていた。
もちろん、この時点でも未だタイラノフの方ではそれを正当とは認めていない。だから、トモモリの父のすぐ下の
弟である叔父は、容疑者となってもタイラノフ財閥の会長代理だった。また、財閥の中でもドル箱と言われる
天然ガスや地下資源の開発会社の社長でもあり続けていた。
タイラノフでなくとも、この叔父の横領罪に関する逮捕劇は、国がタイラノフ財閥の財産を狙ったものという噂
は当初からあった。地下資源に関する会社を国が合理的に国営化する例を、既に国民は過去にも見ていた。
本当は、タイラノフの状況はそれよりさらに深刻だ。だが、財閥で最も資産を持つ会社が地下資源関連の会
社であることはまず間違いない。そういう意味では、噂もあながち外れてはいないとも言える。

いずれにしろ、会長代理が死んだというのは大きな打撃に違いない。後継者、会長と相次いで亡くなり、国
から財閥の土台をゆすぶられているこのタイミングだ。タイラノフ一族の絶望感は想像に難くない。
だが、本来ならばそんな理屈がどうこうではなく、人の死そのものに対して相当の衝撃を受けていいはずなのに、
実際、胸の辺りに空漠感は感じるのに、思ったよりも冷静に受け止めている自分がいた。トモモリの顔をじっ
と見てみたが、トモモリの表情にも殆ど変化はない。
もしかしたら、続けざまに起こる衝撃の連鎖に、そういう感情がマヒしかかっているのか――


『死因は、不明……だが、心不全のようだ、と……そう、言っていた』
「心不全……そうか……病死、か……」

こんな状況にあると全てが疑わしく見えてくる。だが、せめて病死であれば、とマサオミは僅かながらにも安堵し
かけた。だが、マサオミがじっと見つめるトモモリの横顔は相変わらずほぼ無表情を通しながらも、どこかいつも
以上に硬い。

「……それとも……病死、じゃねえのか」
『さあ、な。だが……叔父は、一見まるで違う性質に見えて、案外父上と似たところがあった……ニュースでは、
拘留中、食が細くなっていたようだと言っていたが……非常に、強靭な精神力をお持ちだったから……あり得
ないことだ。それに、血液や心臓系の異常を指摘されたこともなかったようだし……』
「拘置所で何かあったってことか?例えば……拷問とか……」
『それこそ、俺の知るところではない』
「でも、疑ってんじゃねえのか……?」
『――毒殺は、心不全に見せかけられる』

唐突にはっきりと言ったトモモリの言葉に、マサオミは目を見開いた。こちらを向いたトモモリは、緩やかに笑みを
作る。

『……そういう言葉を、期待したか……?』

冗談めかしたような、冷やかな口調。そして、微かな笑い。
だが、マサオミは笑わなかった。トモモリは、マサオミの様子に僅かに肩を竦めたが、特に気にした風はない。言
葉にしない何かを、マサオミとトモモリはその場の空気のみを介して、共有していた。
それこそ、真実は微笑みの奥に隠されていた。

「……このタイミングかよ。連中との取引はこれからなのに」
『いずれにしろ……こちらからの条件に、叔父とツネマサの解放が含まれることは、すぐに想像がつく。だが、今
ならば、その条件を聞く前……タイラノフを潰す前に、叔父の経営する会社を無傷のまま接収したい、という
ことであれば……あちらにとっては、いいタイミングだ。あとは、これで交渉に応じて出てこなければ、次は――』
「止めてくれ。言わなくても分かってる」
『さすがは……兄上』

ツネマサは助けたい。もちろん、一番助けたい奴は自分の傍らに居るけど、トモモリを置いて他に誰を一番助
けたいかと言えば、こう言っては他のタイラノフの一族には悪いが、やっぱりツネマサだ。
トモモリの言いたかったのは、ツネマサのことに違いない。だが、トモモリだって分かっているはずだ。交渉に応じて
出て来なければ、いや、もしかしたらそんなことすら関係なく、次はツネマサなのかもしれない。だが、いずれに
しろ、その次はトモモリ、ということだ。その当人から、そう容易く死に繋がる言葉を聞きたくない。

トモモリとツネマサを失いたくない。だけど、片やその命を狙われ、自らもどこかで死ぬことを望み、片や国に拘
束されていて、故意とも不意とも分からない形で死を迎えかねない――何だって、こんなに無理難題ばかり
が圧し掛かってくるのか。

そんな、八方ふさがりにも似た抑圧的な状況にマサオミの気分が落ち込みかけた時――

『……さて……』

トモモリの、唐突と思われるような声は、僅かにトーンがいつもより高かった。話題の変更を伝えるものだとすぐ
に分かった。ハッとしたマサオミは顔を上げ、トモモリのいつもとは異質な声質からとっても重要なことを思い出し
た。と同時に、どこからか対トモモリ用警戒アラームが鳴り響き、急いで頭を切り替えた。

「あ!そうだ、俺朝食作ってやるよ!さっき用意の途中だったんだよな!」

素早く押し切る、それしかない。そう思って、マサオミは急いでソファから立ち上がる。だが相手の行動も素早
くて、しっかりと手首を掴まれた。トモモリの手は、自分よりも体温が低くて本当にひんやりしている。マサオミは
恐る恐る振り返って、トモモリの顔を見下ろした。

妖しく光る、アメジストのような瞳。そして、否応にも目につくのは――赤い、左頬だ。

ああ、何て笑顔だ。憐憫の思いからか、優しささえ見えるトモモリの顔は、魂が奪われそうな位に美しい。美し
すぎて、悪寒が走りそうだ。
絶対ヤバイ。これは魂というより、命が奪われそうだ。

「サ、サンドウィッチ作ろうと思って、な?好きだよな、トモモリ?もうパンは切ったんだぜ?今すぐ用意してやっか
ら!あ、紅茶、もしかして飲みたいか?ポットかやかんがあればお湯沸かすぜ?」

マサオミは太陽のように明るい、満面の笑みを見せた。

思い出すなあ、トモモリ。初めて会った日のこと、覚えてるか?
晴天の、むしろ強すぎる位のカリフォルニアの太陽の下、ホントに奇跡のような出会いだったよな?
でも、ロサンジェルスでの日々は楽しかったよな?ちょっとのんびりしてて、もしかしたらお前には少し退屈だった
かもしれないけど、今にしてみると眩しい日々っつうのかな。
おおらかで、幸せだったよなあ。やっぱ、おおらかさ、大事だよな?
あ、ところで、トモモリ。その左頬、今は赤いけど、もしかしたら未だちょっとヒリヒリするのかもしれないけど、すぐ
に治ると思うぜ?
な?な??
――そんな思いを、特に後半の部分に関しては全身全霊を懸け、力強く念じながらトモモリに笑いかけた。

『…………』

ともにとびきりの笑みを浮かべて見つめ合う2人。その背後では、命を懸けた男同士のやり取りが繰り広げら
れていた。
やがて――トモモリの、マサオミの手首を掴む手が静かに離れた。

『……クッ……では、最初に、紅茶をいただこうか、兄上……?』
「お!おう、任せとけ!」

よっしゃ!勝った!!――マサオミはガッツポーズさえしたいところをぐっと我慢した。そうして、キッチンに向かお
うとして、ふと再びトモモリに視線を戻すと、その前髪の真ん中あたりをかき分けて、額にキスした。

許してくれたんだな、サンキュ、というマサオミの心の声が聞こえてきそうだ。
マサオミは機嫌よく口づけた後、ダイニングに向かった。その背中を見ながら、トモモリは可笑しくなって小さく笑っ
た。

――マサオミ……許してやるさ……今は、な。

笑みを浮かべるトモモリの瞳は、妖しく光を放っていた。






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